先日の日記
「互いに素」という概念の中に書いた「素因数は、ベクトル空間の直交基底に似ている」に対して、
大学院生の森田さんという方から、
なんだかすごいコメントをもらっちゃいました。
森田さん:
はじめまして。いつも楽しく読ませていただいております。
実際、0を除く有理数は(有理数としての)乗算を(ベクトルとしての)和、
整数乗をスカラー倍とみなせば素数を基底とした無限次元、整数係数のベクトル空間を成しますね。
結城:
ええと、ええと、うーんと…。ははあ、なるほど、なるほど。以下のような感じでしょうかね。
素数を基底とした無限次元のベクトルの要素は、たとえばこんな姿をしている。
(0, 2, 0, 1, -1, 0, 0, ...)
これは
$$(-1)^{0} \times 2^{2} \times 3^{0} \times 5^{1} \times 7^{-1} \times 11^{0} \times 13^{0} \times \cdots$$
に対応(指数のところを抜き出したのがベクトル)。
これは有理数
20/7
に対応している(ベクトルの一番最初の成分は符号ビット(指数は0または1)とする)。
2は
$$2^n$$
の軸の基底。3は
$$3^m$$
の軸の基底, ...とする。
12という有理数は、2と3の基底を使って、
$$(-1)^{0} \times 2^{2} \times 3^{1}$$
と一意にあらわせる。
だから、(0, 2, 1, 0, 0, 0, ...)というベクトルと対応。-1/2
という有理数は、
$$(-1)^{1} \times 2^{-1}$$
だから、(1, -1, 0, 0, 0, 0, ...)というベクトルと対応。
零ベクトル(0, 0, 0, 0, ...)に対応する有理数は1。
いま、p/qという有理数を考えよう。
pを素因数分解したベクトルを
$$(p_{-1}, p_2, p_3, p_5, \ldots)$$
とし、
qを素因数分解したベクトルを
$$(q_{-1}, q_2, q_3, q_5, \ldots)$$
とすると、
p/qは
$$(p_{-1} - q_{-1}, p_2 - q_2, p_3 - q_3, p_5 - q_5, \ldots)$$
に対応する(ただし符号ビットのところは2の剰余系で計算)。
有理数p/q(ただしpもqも非0とする)に対応するベクトルの逆ベクトルは、q/pに対応するベクトルになる。
こんな感じでしょうか。
そうか、こういうベクトル空間を考えると、
素因数分解というのは「ひとつのベクトルがそれぞれの軸に落とした影を見つける」という計算なのですね。
そして、2つの整数の最大公約数が1(互いに素)というのは、
ベクトルaとベクトルbの成分で非ゼロの部分に重なりがない(直交する)ということなのか。
で、a⊥bだと。
ところで「互いに素」を「a⊥b」と表記するという話題は、Knuth先生たちの
『コンピュータの数学』
に出てきます。
「互いに素」を簡潔に表す表記法がないので「世界中の数学者たちよ、もう待てない」というふうに書かれていますね
(いま記憶で書いているので不正確かも。あとで確かめます→おおむね合ってました。邦訳p.115)。
以下はおまけ。
追記(2005-04-11)
『コンピュータの数学』のp.107には、
ちょうどこの「素数を基底とした無限次元のベクトル空間」に似た「素数指数表現」という話題が書かれていました。
読者さんからコメントをいただいたので、さらに追記(2005-04-12)
読者さんからコメント
すごく瑣末なんですが,このケースでは確かに素数を基底とした自由加群ですが,
係数環が体ではない場合,数学ではベクトル空間という言い方をしません.
#本当に瑣末ですね.ちょっと気になったので.
ところで,Hamel基底をご存知でしょうか?
実数体は有理数体上無限次元のベクトル空間なのですが,その基底にはHamel基底という名前がついています.もちろん具体的な構成はできないのですが.
http://mathworld.wolfram.com/HamelBasis.html